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名古屋高等裁判所 昭和58年(行ス)4号 決定

抗告人(申立人) 株式会社 丸中建設

相手方 三重県

主文

原決定を取り消す。

本件執行停止申立を却下する。

申立費用及び抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙「即時抗告申立書」記載のとおりである。

二  行政事件訴訟法に基づく執行停止の申立てにおいて、相手方となる適格を有するのは、原則として本案訴訟について被告適格を有する者であり、本件執行停止の申立てについてこれをみれば、被申立人適格を有するのは三重県知事であるといわねばならない。そうであれば、三重県を相手方とした本件執行停止の申立ては不適法であり、これを看過してなされた原決定は失当というべきである。

もつとも、記録によれば、本案訴訟である津地方裁判所昭和五八年(行ウ)第三号協同組合の設立認可の申請受理無効確認請求事件について、同裁判所は昭和五八年六月二日原告の申立てにより被告を三重県から三重県知事田川亮三に変更することを許可する旨の決定をしたこと、そして、本件即時抗告事件についても、抗告人は同月六日当裁判所に当事者変更の許可を求める申立てをしていること、が認められる。しかしながら、執行停止申立事件は、本案である取消訴訟あるいは無効等確認の訴えに附属はするものの本案とは別個独立の制度であること、また、行政事件訴訟法一五条の規定の趣旨は、取消訴訟において原告が故意又は重大な過失なくして被告を誤つた場合に出訴期間の関係で処分を争えなくなるのを防ぐにあり、申立期間の制限がない執行停止申立事件について同条の規定の類推適用ないし準用はないものと解されること、からすれば、叙上のような経過があつても、本件即時抗告事件について相手方の変更を考慮する余地はないというべきである。

よつて、原決定を取り消し、抗告人の本件執行停止申立を不適法として却下することとし、申立費用及び抗告費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 中田四郎 名越昭彦 木原幹郎)

(別紙)即時抗告申立書

抗告の趣旨

原決定を取消す。

相手方が、四日市砂利協同組合(発起人代表三宅伴明)から提出され、受理した同協同組合設立認可申請の手続は、津地方裁判所昭和五八年(行ウ)第三号協同組合設立認可申請受理無効確認事件の判決確定に至るまで停止する。

抗告の理由

一、(原決定)

抗告人は昭和五十八年三月三日、相手方との間の、津地方裁判所昭和五八年(行ウ)第三号協同組合設立認可申請受理の無効確認の訴を提起し、同日、右本案判決確定に至るまで、認可手続の停止を求めるため執行停止の申立をなしたところ、昭和五八年三月九日、これを却下した。

二、(原決定の理由)

そして、原決定の理由とするところは、申立人の指摘する相手方が受理した四日市砂利協同組合設立認可申請は、中小企業等協同組合法第二七条の二に基づくもので、右受理によつて申立人の権利関係に変動をもたらすものと認めることはできず、右受理行為は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたらないものと思われ、また、右申請手続自体によつて申立人の権利が侵害されているとも認められないから、結局、本件申立は本案につき理由がないとみえるか、あるいは、申立人が回復困難な損害を受けるものではないと認められるから、いずれにしても申立人の本件申立は理由がないことが明らかである、として却下決定をなした。

三、(原決定の不当性)

1、原決定の却下の理由は、〈1〉本案について理由がない〈2〉申立人が回復困難な損害を受けるものではない、とし〈1〉本案について理由がないとする根拠を、(イ)受理によつて申立人の権利関係に変動をもたらすものと認めることはできない、(ロ)受理行為は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたらない、(ハ)申請手続自体によつて申立人の権利が侵害されていると認められないとする如くであると思料せられるので、以下、これに反論する。

2(一) 先づ(イ)「受理によつて申立人の権利関係に変動をもたらすものと認めることはできない」と云う点であるが、原決定は、これをもつて本案訴訟たる受理無効確認訴訟の法律上の利益が存しないと云うものと解される。

(二) 昭和五〇年九月一七日、広島高裁昭和四八年(行コ)第一〇号(行裁例集二六巻九号九九四頁)判決は、「建築確認処分の対象たる建物に隣接して居住する者は、右確認処分の無効確認を求める適格を有する」とし、その判決理由において、「法(建築基準法)が右規制を設けている趣旨は、直接には、健全な建築秩序を確保し、一般的な火災危険の防止、生活環境の保全等という公共の利益の維持増進にその目的があることは同法第一条の規定により明らかであるが、……そして、右建築規制法規は、これが右近隣居住者の採光、通風、生活環境の保全、防火に寄与する限度において、公共の利益と同時に近隣居住者の右個人的利益をも保障する趣旨」として近隣居住者に法律上の利益を有することを認めており、また、最高裁昭和三七年一月一九日判決(民集一六・一・五七)も、公衆浴場の距離制限規定は、「被営業許可者を、業者の濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有する」ので、既存業者の受ける営業利益は「単なる事実上の反射的利益というにとどまらず、公衆浴場法によつて保護せられる法的利益と解する」と云う。

(三) ところで本件は、申立の理由に記載のとおり、抗告人が所属する、四日市砂利類採取販売協同組合の代表理事(当時)である三宅伴明こと崔柄讃が、右組合の収入となるべき九千万円を横領している事実を知り、これを告訴したことから、右三宅は抗告人を組合から排除して業界から抹殺せんとし、

(1) 抗告人に対する砂利採取の割当てを停止する、

(2) 抗告人を除名する、

(3) 右組合を解散する、

と組合員を威圧して、順次、決議せしめて来たが、これに対し抗告人は各決議が公序良俗に反するものとしてその効力を停止する旨の仮処分命令を得て来た。特に、解散決議は、右三宅が「解散後、丸中(申立人)を除いた現組合員で直ちに新組合を設立する」旨を言明して決議せしめている。右の経過により、新組合として設立認可申請せられたのが四日市砂利組合であつて、この認可がなされれば、抗告人が砂利採取販売業者として生残る道は、左記の理由によつて、全くないのである。

(1) 抗告人が四日市砂利組合の組合員たる仮の地位が認められても、事実上、砂利採取の割当てを得られなければならずこれについての行政指導は期待出来ない。

(2) 四日市砂利類採取販売協同組合の解散無効判決を得ても、結局、抗告人の一人組合となつて協同組合の性質上、存続し得ない。

(3) 現在、河川の砂利類採取は採取上の紛争を排除するため、国・地方自治体共、砂利業者に協同組合を設立せしめて、これに採取を許可すると云う行政指導をなしており、個人若しくは個別の企業体には砂利類の採取許可を認めないので、抗告人には砂利類の採取は出来ない。従つて、抗告人の現在の取引先(市場)は、殆んど四日市砂利協同組合の組合員らに侵奪せられる。

(四) 原決定は、抗告人の権利関係に変動はないと云うが、抗告人を排除することを目的としてなされた解散、そして抗告人を排除してなされた新組合の設立認可申請が、公序良俗に反することは勿論、中小企業等協同組合法第一条に定められる目的に反することも明らかであり、四日市砂利類採取販売協同組合の組合員たる申立人の権利を明らかに侵害するものと云わなければならない。この結論は(二)記載の判例の趣旨からも明白である。

3 (ロ)「受理行為は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にならない」と云うが、認可が第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめる行為(田中二郎・新版行政法一〇九頁)であり基本たる行為(本件の場合、申請)の不成立又は無効なときはそれに対する認可によつて基本たる行為(申請)が有効となるものではない(前同)にも拘らず、適式な申請であれば認可しなければならないものであるから、認可申請の受理は「申請が有効な行為」として受領する受動的意思行為であり基本たる行為(申請)が違法な場合には受理行為は、抗告訴訟の対象となるものと解さなければならない。(昭和五一年三月三〇日名古屋高判・昭和五〇年(行コ)第一三号同旨、外多数判例体系第二期版行政訴訟法2)

4 (ハ)「申請手続自体によつて申立人の権利が侵害されているとも認められない」と云うが、この点については、2の(三)以下に述べたとおり、抗告人は申請自体が違法であり、申請が無効である旨を主張するもので、その無効な申請が、無効として申請を却下せられれば抗告人に損害は発生しないが、申請が有効なものとして受理せられているので、これに続く処分(認可)により損害を受けるおそれがあるので、認可申請の受理無効確認を求め、また、認可手続の執行停止を求めるものである。

5、原決定は、後に更正したが更正前「右受理行為は取消訴訟の対象となる行政庁の処分にあたらない」と述べており取消訴訟のみを考慮していたのではないかと考えられるが、以上述べたところにより抗告人の本案訴訟たる申請受理無効確認の訴は十分の理由が存する。

6、原決定は、また、〈2〉「申立人が回復困難な損害を受けるものではない」と云うが、その根拠は全く不明である。前述のとおり設立認可申請が認可せられるや、

(一) 四日市砂利協同組合は抗告人を排除し、砂利類採取権を得て、一方右採取権の得られない抗告人の市場は、右協同組合員らに侵されることとなる(これこそ新組合の企図するところ)。

(二) 使用目的によつては、河川から採取した砂・砂利であることを要し、山砂での代替性がないから、この場合、(一)の影響は決定的である。

(三) 仮の地位を定める仮処分命令を得、四日市砂利協同組合の組合員たる地位を得たとしても、抗告人に対し右協同組合が抗告人に砂利割当をするとは、従前の経過から期待し得ず、また、行政指導も期待出来ない。

(四) 個人若しくは個別企業に砂利採取を認めない現状では、四日市砂利協同組合の組合員による抗告人の市場侵奪により抗告人は倒産の外ない。

右の損害は、本案判決確定の時点において現状回復出来ないのは勿論、抗告人が倒産するに至つては論外である。認可申請中の四日市砂利協同組合の組合員らも、砂利採取出来ない現状は、抗告人と同様であるが、代表理事(当時)三宅伴明の威圧があつたとは云え、右三宅に賛し、違法な解散・設立に同意した以上、抗告人と共に困難を迎えなければならない。

7、したがつて、原決定は不当であるからその取消を求める。

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